「どうやら昨日は無事に済んだみたいですね」
「どうかな」
ホッとしたような保の確認に、井戸田は否定的な答えを返した。
「え？ でも、結局昨日は真ん中の部屋に誰も来なかったし、、、まさか私たちが盗んだと疑っている？」
「『とみて』達を疑ってはいない。単に相手の狙いが真ん中の部屋だけじゃなかったという話さ。まあ、俺はまんまと利用されたと言うことだろう」
その時、表に車が到着する音がした。その突然の来訪者を迎えるため、香が席を立った。しばらくして戻ってきた彼女は夫に来訪者の名を告げた。
「努さん、白沢さんがお見えになりました。何でも急にお願いしたいことができたとかで。努さんと、静香ちゃんに会いたいと」
「私に？」
「『とかき』さんが？」
驚いた声を出したのは、急に名指しされた静香と白沢と同じ西の一族である両角だった。
「ここでいろいろ言っても始まらない。こちらへお連れしてくれ」
「はい」
「みなさん、お久しぶりです。と、『たたら』にはこの間会ったな」
入ってきた白沢は、室内にいる一同に挨拶をした。
「どーも。関係ない人は席を外した方が良い？」
「いや、ここにいる人なら問題ない」
「電話でも伝えられないことを？昨日の今日だがえらく信頼されたもんだな。それとも式で様子を探っていたか？」
「それについてはノーコメントと言うことで勘弁してください。ともかく用件を伝えさせていただきます。『ちちり』さん、『とみて』さん、あなた方に宮中から三日後平服で参内するよう命がありました」
「参内って？天皇陛下に呼ばれたと言うことですか？」
「はい。倉橋さんには『とみて』嬢のエスコートをお願いしますね」
「ちょ、なにそれ？保、貴方背広持ってるの？」
「背広は、、、持っているけど、さっき平服だって」
「馬鹿ね、宮中で平服ならば男の人は最低背広よ。礼服と言ったら燕尾服かモーニング」
「いや、そんな、皇居の堀の内側に行く機会なんて普通ないし。それより、僕なんかが同行して良いんですか？」
「いえ、こちらからお願いしたいのですよ。一族の外の人間としてこれから一族の者たちが行うことを見届けていただきたい。今回『ちちり』が貴方をここへ招いたのも同じ意図でしょう」
白沢は井戸田が軽くうなずくのを確認して先を続けた。
「無断で巻き込んだのは申し訳なく思いますが、ここは曲げてお願いいたします」
「それは、、、まあ、、、でもいったい何故天皇陛下から呼び出されたのですか？」
「詳しい話までは聞いてませんが、まあこのところ起きている一連の出来事の絡みでしょう」
「判りました。僕もこのことが、これからどうなるのか興味があります」
「ありがとうございます。では、三日後、宮中でお会いしましょう」