2012年1月1日より
北海共和国陸軍第四師団第十二烈士隊第三大隊隷下礼文守備隊差配 陸軍中尉西大立目三郎次郎孝典 記す
4月30日
本日、不審船および不審航空機の確認なし。小職の心うちとは裏腹に、きわめて平穏無事なり。
小職が心を痛めるは、先だって行われたAFCカップにおいて我が稚内がハノイに手も足も出ず完敗したことにあり。かくして稚内はリーグ全敗を喫し、北海フットボーラーの期待を大きく裏切ることとなった。この結果により我が国のリーグランキングが下がり、北海チャンピオンがプレジデントカップに回ることとならば、小職は稚内サポーターの一員として北海のフットボーラーに腹を切ってわびることを考えねばならぬ。
それよりも嘆かわしきは、このことを我が隊士に伝えたときの「さほどのことではありますまいに」「AFCとは何でありましょうや？」とのごとき無関心ぶりにあり。先のワールドカップにおいては、大日本帝国および大韓帝国の代表がそろって決勝トーナメントに進出し、東亜のフットボールの精強を世界に知らしめたるに、我が国のこの有様は誠に嘆かわしきことなり。
5月5日
本日、不審船3隻 ロシア籍2 満州籍1 不審航空機確認なし。5月に入りて後、不審船急に増える。
通年流氷が消えるとロシア船が増えるが、今年の数はやや多くはないか？ かの国が無謀なる野心抱かざるを祈るのみである。
しかし、満州は何故この遠方に船を回したのであろうか？
5月10日
本日、不審船3隻 ロシア籍、満州籍、大韓籍各1 不審航空機2機。不審機に対しては空軍能登呂基地より緊急発進有り。なお、明日日本より客人有りとのこと。
大韓籍の不審船は珍しい。大韓も満州船とロシア船の行動に神経をとがらせているのか。明日来訪する日本軍の使者も、それに関係した用向きであろう。願わくば、我が国を巻き込まずにおいてもらいたいものである。
5月11日
本日、不審船2隻 全てロシア籍 不審航空機なし。大日本帝国陸軍 松井幸正中尉が来島する。
中尉に「同階級ですね」と問いかけると、「私は階級は中尉ですが、部下もない実質一兵卒です。三軍を指揮する西大立目殿とは格が違います」とあからさまかつ大げさな追従を言ってきた。三軍といえど、海空軍の者は連絡役の下士官一人ずつしか居ないことは、説明せずとも察しが付こう。守備隊とは名ばかりの辺境の見張り役に対してそこまで言うのは慇懃無礼というものだろう。
不愉快だったので、「名高き明石機関の一兵卒ならば、優に一個大隊に匹敵するでしょう。辺境の小隊長が松井殿と同格とは、大変失礼な物言いを致しました」と言い返す。これには「明石？ 私は10師(姫路)ではなく3師(名古屋)ですが」ととぼけられた。日本の諜報機関の存在は、日本軍人は決して認めないようである。
5月12日
本日、不審船3隻 全てロシア籍 内1隻はキロ級潜水艦、不審航空機なし。
日本からの客人は今日も西の岸部へ向かい、昨日と同様日がな一日海を見て過ごしたようだ。昼頃一度声をかけてみた。かの客人は釣りをしているふうであったが、その目はウキではなく洋上を行く船を見ているのは明らかだった。最近頻繁に現れる不審船と関係があるのか問うてみたが、うまくとぼけられた。食えない男である。手に赤い24の数字が入ったサポーターを巻いていたのが気になり聞いてみると、名古屋グランパスに昔いた若手選手のグッズだとこちらについてはすぐに答えが返ってきた。本田圭佑のことかと重ねて聞くと、うれしそうに名古屋時代のプレーを語り始めた。根は悪い男ではなさそうである。
5月25日
本日、不審船、不審航空機共になし。
松井中尉は、明日当地を離れる予定。中尉とはフットボール談義で意気投合し、良い交流ができた。我が国のフットボール事情の貧しさについて、「近隣国の強化なくば日本の未来も明るからず」と我が事のごとく憂いてくれた。真によい男である。
6月5日
本日、不審船、不審航空機共になし。6月に入りて後、礼文周辺は平穏無事なり。
されど、北海全体としては平穏とは言い難き様である。本日伝えられたところによれば、択捉にてロシア機が領空を侵犯したとのこと。対応にあたったは、北海有数の「秋津」乗りで婦人操縦士としては東亜広しと言えども右に出る者のない「千島の黒百合」であったとのこと。侵犯機は応対機が「千島の黒百合」であることを認めた上で急接近を仕掛け、暫し戦闘機動を繰り返した後発砲することなく領空外へ出たとのこと。小職が侵犯機の操縦士であれば、戦時であっても「黒百合」と判るやいなや逃げ出すたところである。あえて槍を交えんとした心意気は立派とは思うが、平時に乱を起こすがごとき行動は理解できぬ所である。ロシアは何を考えているのであろうか？